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キラキラ

第26章 10カゾエテ  ~Count 10~


俺の勢いに、翔は、ただだだ呆然としている。
捨て猫のような頼りない瞳に、一瞬で我に返った。


……あ



一瞬脳みそが焼ききれそうなくらい、熱くなった。
カッとしてしまって怒鳴ったものの、この翔の潤んだ瞳をみると……後悔しかない。


だって、これは完璧俺の八つ当たりでしかないじゃねぇか……。


自己嫌悪に襲われながら、俺は乱暴に髪の毛をかきあげ、ベッドをおりた。


「……悪い。ちょっと頭を冷やしてくる」


翔の顔も見れないまま、扉に向かって足早に歩いた。

すると、待て、と言わんばかりに、翔は、俺の服の裾をぎゅっとつかんだ。

その手をもう一度振り払うことができなくて。
それ以上進むこともできず、俺は立ち止まった。


「……離せよ」

「潤……」

「……怒鳴って…悪かった。だから離せ」

「……違うよ」

「頼むから離せって……」



これ以上惨めにさせないでほしい。
一刻も早く、身勝手な苛立ちをおさめたいから。
下手すりゃ俺の方が泣いてしまいそうだ。
なんだって、こんなことになってんだか。


「……顔洗ってくるわ」


最もらしい理由をつけ、少しだけ体に力をこめ、無理矢理その手を離そうとした。
すると、固く握った手を離そうとしないまま、ぼそりと翔が口を開いた。


「……違う。なんの情報か知らないけど。俺は大野とつきあってなんかない」

「……」

「ガセネタだよ」

「……」

「それより……もう一度キスすれば忘れられるって言うなら……してよ」

「……え?」

「俺に。キスしろよ」


翔が、何を言っているのかよく分からない。
今度は俺が、呆然とする番だった。

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