
キラキラ
第26章 10カゾエテ ~Count 10~
涙に滲む視界のなか、懸命に瞬きして、声の主を探す。
相変わらず、めんどくさそうな、だるい雰囲気を纏い、ペタ…ペタ…とスリッパの音を鳴らしながら、こちらに歩いてきていたのは。
「……大野」
上級生は慌てるような声をあげ、俺から離れた。
「同意だぜ、同意」
「……」
言いながら、少しずつ大野から距離をとるようにジリジリと離れてゆく。
解放された俺は、床にぺたりと座り込んだ。
「……」
なおも無言で威圧するようにこちらに向かって歩いてくる大野から逃げるように、上級生は、部屋のなかを大回りして出口にむかって足早に出ていった。
「……」
「……」
大野が俺の前に立ち、じっと見下ろしてくる。
俺は、溢れてくる涙を腕でぐいっとふいて、大野を黙って見上げた。
「……同意?」
ポツリと問われ、ぶるぶると首をふって否定する。
「……相葉、呼んできてやろうか」
ポツリと提案され、またぶるぶると首をふった。
「……誰にも言わないで…」
かすれた声で訴えると、大野は少し眉をひそめたようにみえた。
でも、俺は頑なに首をふり続けた。
誰にも知られたくない。
特に、潤には知ってほしくない。
俺は震える手で乱れた衣服を整えた。
ハーフパンツのなかでくちゃくちゃになった下着をずりあげ、Tシャツの裾をハーフパンツのなかにいれた。
ダサい着方だと、潤にいわれたけど、今はいれずにいられなかった。
そんな俺を、黙ってみていた大野は、ふん、と鼻をならし冷蔵庫から缶ジュースを取りだし、クピクピ飲み始めた。
俺は立てないまま、その場に座り込んで、ぼんやりと大野を見つめていた。
震えがとまらない。
ジュースを飲み終わった大野は、カンと音をならしてゴミ箱に空き缶を放り込んだ。
そして再びスリッパをならしてこちらに近づいてきたと思ったら、黙って、新しい缶ジュースを俺の手のなかに滑りおとした。
「……あいつはこの地域の議員のドラ息子だ」
「……」
「……今度、病院送りにでもしとく」
「……」
「……さっさと部屋に戻れ」
珍しく大野がたくさんしゃべってくれてるのを、俺はぼんやりとした頭で聞いていた。
そうしてまた、だるそうな足音をさせて大野は出ていった。
俺は、震える手で、冷たいジュースをただ握りしめていた。
