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キラキラ

第26章 10カゾエテ  ~Count 10~


高等部に入学してからこっち、常に潤と行動していたから、一人で風呂に入るなんて、久しぶりだった。


誰としゃべるでもなく、無言で体を洗い、髪の毛を洗い、湯船につかり。


まあ、高等部ともなれば、そんな、みんなきゃっきゃっしてるわけじゃないから、まわりも皆、俺と同じようにもくもくと毎晩のルーティンをこなしてる感じだ。


部屋着を身につけ、タオルを首にかけて、大浴場をでる。
ぽたぽた落ちてくる雫を無造作にかきあげながら、ペタペタと歩いた。


……喉乾いたな……


談話室に、冷蔵庫があり、その中のお茶は自由に飲んでいいことになっていることを思いだし、途中で引き返して、談話室に向かった。

テレビも終わり、さっきまでいた人間たちはみな部屋に引き上げたのか、談話室内は、しんとしていた。

毎朝、茂子さんはじめとする食堂のおばちゃんたちが、補充してくれるお茶を、グラスに注ぐ。

よく冷えてておいしい。

こくこくと二杯飲み干し、シンクでさっとグラスを洗った。

そうして談話室をあとにしようとしたら。

入れ違いに入ってこようとした誰かと鉢合わせした。

俺は最初うつむき加減に歩いていたから分からなかった。

だけど、ちょうどのタイミングでお互いに扉をあけたもんだから、「あ、ごめんなさい」と、道を譲ろうと、何気なく顔をあげたのだ。


「あ」

「………っ」


一瞬時が止まった。


「おまえ、大野といたやつじゃん」


忘れもしない、大野との喧嘩相手。

彼の驚いた目に、獲物をみつけたかのような光を見た俺は、ヤバイと直感的に感じた。

弾かれるようにその場から逃げ出そうとして、


「おい、待て」


と、すかさず手首をつかまれた。


「……!!」


ぞわっと背中が粟立った。

蘇る恐怖。

あのとき力ずくで連れていかれそうになった記憶が一気にフラッシュバックした。



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