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キラキラ

第26章 10カゾエテ  ~Count 10~


「センパイがた、ここ学校ってわかってっか?あんま品のないことすんじゃねーよ………」
 

俺を引っ張りながら、大野が低い声で相手を牽制する。
そのままさらに強引に引っ張られると、上級生につかまれたままの手首が悲鳴をあげた。

だけど、俺は痛みに耐えながら、体重を大野側に必死に倒した。

本能的につかまったらヤバイと思った。
渾身の力で、上級生の手を振りほどこうと手首をねじった。


「……つきあうっつってんだろ。こいつを離せって!」


大野が再び凄むと、黙ってみていたもう一人の上級生も、


「センコー来たら面倒だから。さっさと行こうぜ」


と、俺をあきらめるようにそいつに促した。
そいつは、ちぇ。つまんねーな………と呟いて、渋々、ぱっと手を離した。


「うわっ………!」


反動で、大野に寄りかかった俺を、大野は軽く突き飛ばす。
俺は、みっともなく渡り廊下に尻餅をついた。

そんな俺を見ることもなく。


「俺、このまま帰るわ」


ぼそりと言い残し、大野はその背中を丸めて上級生とともに歩いていく。


え。帰るって………?!
サボり?!


「ちょっ………大野!」


俺は、渡り廊下に馬鹿みたいに座り込んだまま呼びかけたが、大野は振り返ることはなかった。

………というよりも。

カッコ悪いことに、足がガクガクして、俺はしばらく立ち上がることができなかった。





山のようなテキストを一人でかかえて教室に入ると、近くにいた潤が、あわてて駆け寄ってきてそれを受け取ってくれた。


「大野はどうしたんだよ?やっぱりサボりか、あいつ?」


ちょっと怒ったように言って、俺を労ってくれる。


サボりはサボりだけど、その前にいろいろとあって………。

どこから説明しようか言い淀んでいたら、潤の目付きが鋭くなった。


「………おまえ、その手どした?」


言われて自分の右手に目をやれば、手首が赤くなってる。
なんなら、指のあとがくっきりとついてる。


「大野か?」


「………違うよ」


喧嘩に巻き込まれそうになったけど、大野は結果的に俺を庇ってくれた。

そう、説明するまで、潤は怖い顔のまま、俺の右手首を優しく擦り続けてくれた。


「……痛そうだな」

「平気」


一人で喧嘩に出向いた大野を思うと、不謹慎だけど。

潤の優しさがなんだか嬉しかった。

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