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キラキラ

第19章 バースト3



車を走らせること一時間半。

潮の香りと、さざ波の音がきこえる、とある場所に停車した。

俺は、ワクワクしながら車から降り立ち、肺の隅々までいきわたるくらいに、大きく息をすいこんだ。


「はー…海の匂いがする……」


いい匂い。


海が好きな俺は、嬉しくなって深呼吸を繰り返した。


「あー……サーフィンしてぇな」


ピッと車のロックをした昌宏さんが、隣で気持ち良さそうに伸びをして、ぼやいた。


「今年はあまり行ってないの?」


「んー休日出勤が多かったからなあ」


マリンスポーツが得意な昌宏さんは、毎年真っ黒になるのに、今年はまだまだ白い。


「そっか」


「あー智と旅行もしてぇなあ」 


「……いつかね」


いたずらっぽく笑う昌宏さん。

旅行は、ずっと言われてることなんだけど。
翔たちの手前、なかなか行きづらくて。

俺は、曖昧に笑った。




ただの日本家屋にみえるここは、知る人ぞ知る和食の美味しい店。

基本、一見さんお断りだから、混みあっていることも少ない。
しかも、車を出す前に、昌宏さんが、予約の電話をいれてくれていたおかげで、到着後、あっさりと中に通された。


個室になってる一室に、向かい合って座る。
窓の外はもう随分暗くて、海らしき場所は、真っ黒だ。


「ありがとう。疲れてるのに、連れてきてくれて」


熱いおしぼりで手を温めながら、礼をいうと、昌宏さんは、指を組んだ手を顎において、俺をじっと見つめ、にっと笑った。


「可愛い智のお願いを、俺が断るわけねえだろ」


「……だから。素面でそういうこというなって」


昌宏さんは、初対面のころからこうだ。
常にストレートな愛情表現を、直球で投げてくる。
それにつかまって、何年たつだろう。

だいぶ慣れたつもりでは、いるけれど、時々どうにも照れ臭くなるんだよね。

照れ隠しに、運ばれてきた冷たいお茶を飲んでたら、

「じゃあ、あとで、俺のお願いも聞いてくれな?」

と、言われ、吹き出しそうになった。



昌宏さんのお願い??!
 

いっきに警戒度を増した俺の表情に、昌宏さんは楽しそうにくつくつ笑った。
答えられることならいいけれど。


 
「……」


エロいことは嫌だからね。


目で軽く牽制すると、昌宏さんは涼しい顔で、お茶を飲み、うまいと呟いた。

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