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キラキラ

第19章 バースト3


「そんな怖い顔しないで。私はこういうものよ」


真顔で、じっと見つめていると、女性は流れるような仕草で、名刺を取り出した。

不審の目を向けたまま、それをうけとり、ちらりと視線をおとすと、そこには俺も聞いたことがある大手出版社の名前が印刷されていた。

女性は、北川、と名乗った。
編集者をしているという。


「出版社……」


知らず眉がひそめられる。
心のどこかで警鐘がなる。

そんなところから声をかけられる理由なんか、見当たらない。

仮に……仮に、見当たるとすれば、それはすこぶるまずいことの気がする。

俺は、無視することに決めた。
ニッコリと立ってる北川を再び睨み付け、もらった名刺を突き返す。


「急いでるので」

「お話をききたいの」

「話なんかない」


顔を伏せ、北川の脇をすり抜けて、急ぎ足で歩を進めようとしたら。


「瞬間移動」


北川の凛とした声が、響いた。

ぎくりとして立ち止まる。
思わず、ふせていた顔をもう一度あげると、北川は涼しい顔をして、腕組みをしてみせた。


「……って。知ってる?」


「……知らねえ」


キッパリ言いきった。

北川は、じっとその大きな瞳で俺を見つめてくる。
澄んだ瞳。

心まで見透かされそうなその視線に、思わず目を逸らしてしまった。


まずい。

きっと、いろいろまずい。

差し当り、こんな話、こんな職業の大人とすべきじゃない、ということだけがはっきりしてる。

ここはもう、すっとぼけてトンズラするに限る。
俺は、黙って、身を翻して歩き出そうとしたら、


「大野翔」


今度こそドキリとした。


「お友だちよね?」


「……いや。知らない」




瞬間、キンと耳鳴りがした。

凄まじい勢いで、目の前を覆う白い世界。

舌打ちしたくなった。

まずい……。




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