
キラキラ
第19章 バースト3
「それよかさ。翔さんとしてる能力のトレーニングとやらは、順調なの?」
「……まあ。ぼちぼち」
自分が考えていたことを見透かすように雅紀に問われ、慌てて言葉を濁した。
抱き締められた、翔の胸の広さまで思いだしてしまってたから、幾分顔が火照っているのを感じる。
(俺こそ、乙女だな……)
雅紀のことはいえないじゃん。
誤魔化すように、自分の顔を隠しながら、あー眠いなあ、と机に突っ伏してみせた。
雅紀は、そんな俺の髪に触れ、子供をあやすように撫でながら呟く。
「最近、潤、笑顔増えたもんね。いいことだよ」
「……そうかな」
ぼそりと返すと、雅紀は、朗らかに続ける。
「そーだよ。お前、笑った顔すごくいいよ。仏頂面より、そっちのほうが絶対いい」
力説する雅紀がおかしくて、ふふっと笑い目を閉じる。
確かに。雅紀のおかげで、学校で笑える回数も増えたよな。
感情を固めていた数ヵ月まえからは、嘘のように楽になった。
俺のことを遠巻きにみていた、クラスメイトらも少しずつ話しかけてくるようになったし。
……感謝だな。
「……ちょっと。登校そうそう寝んの?」
あきれた声に、またくすりと笑った。
***** *****
「じゃあね、潤」
「ん。また明日な」
部活に向かう雅紀と別れて校門をでた。
雅紀は、バスケ部に所属しているため、放課後はほぼ部活動だ。
俺は、人間関係作るのが面倒だから、と帰宅部を貫いているから、フリー。
早く帰って、昨日、翔に借りた本の続きでも、と駅前までの道をぶらぶら歩いてたら、路肩に停車していた、黒のコンパクトカーから、一人の女性がおりたった。
オフホワイトのシャツと、黒パンツに身を固め、こつこつとヒールをならしてこちらに歩いてくる様は、いかにも仕事ができます的な外見をも含め、すれ違ったら、みな振り返ってしまうであろう迫力のある美人で。
思わずその場に立ち止まると、その女性は真っ直ぐ俺に向かってきた。
「松本潤、くん?」
鈴がなるような綺麗な声で名を呼ばれる。
「……」
だが、俺はたちまち心の鎧を固めた。
知らないやつが、自分の名を知っている。
怪しくないわけがない。
そうだ、とも言わず、違う、とも言わず。
俺は、つとめて無機的にたずねた。
「誰」
