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キラキラ

第12章 ほたる ~バースト2~

そして、彼はそっと俺の額に手をやろうとして。

俺は、反射的にびくっと身をすくめてしまった。


「あ…………」


昨日のことが、フラッシュバックする。
いいように触られて弄られた記憶が甦る。

ほんの少しでも、セックス一回くらいで、宿泊地がおさえれるならいいか、と、短絡的に思ってしまった自分が、今でもつくづく信じられない。

だからこそ思う。
今いるこの場所が。
目の前のこの人が。
絶対安心、安全とも、わからないって。


この優しさが、全部うそだったら…………?



怯えた目をしてしまっていたのだろう。



彼は、びっくりしたように目を見開いて、その手をとめていた。


その表情に、急に悪いことをしてしまった気分になる。

ところが、彼は、ふっと柔らかい顔になり、首を静かに振った。

「…………なにもしないよ。熱だけみせて?」

優しい声音。

つられるようにコクりと頷いた。

細い指が、俺の前髪をかきあげ、いつのまにか貼られてた冷却シートをはがした。
それは、だいぶぬるくなってたみたいで、傍らのごみ箱に捨てられる。

温かい大きな手のひらが、そっと額を包んだ。
予想外に気持ちよくて、俺は、思わず目を閉じた。


「…………熱いな。水飲むか?」


優しい口調で問われ、頷いた。


顔も熱いし身体も熱くて、喉はカラカラだった。

彼は、ペットボトルを手に取り、ストローをさして口元に差し出してくれる。

冷たい水が体に染み渡り、生き返った気分だった。

思えばかなりの間飲まず食わずだ。
貪るように、コクコク飲んでいると、その人は言った。

「…………名前だけ。教えてくれる?」

目をあげると、だって呼びかけづらいからさ、と、ふにゃり優しく笑う。

この笑顔好きかも…………。

警戒心のような、構えてしまう心を溶かしてくれる。

…………名前か。


「俺はね、大野智って言うの。で、もう一人が弟の、翔」


名前くらいなら、いいか。


「…………にのみや、かずなり」

ストローから口を離し、ぼそっと答えた。


「二宮くん?」


うん、と頷いた。


「舌かみそうだな。…………かずなり…………かず、でいっか」



見上げればその人は、にっこり笑っていた。

大野さん、か。
悪い人には見えない。

悪い人だって…………思いたくないな。

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