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キラキラ

第37章 寵愛一身

片手で数えるほどしか、この家には足を踏み入れてない。

だが、俺の部屋が入りそうな玄関ホールだとか、飾られた花の香りだとか……覚えのあるそこかしこに、松本のテリトリーにいれてもらった実感がわいて、うれしかった。


「……こっちや」


二階にあがってゆく従兄弟さんの背中を、俺は、あわててスリッパをつっかけ、小走りでおいかけた。

ぴったりと閉じられた扉の前で、軽くノックする。

返事を待たずに、そっと中へはいってゆく。

空調のきいた部屋は、外ほど蒸し暑くなく、半分閉められたカーテンのせいで少し薄暗い。


部屋のはしにあるベッドから、静かな寝息がした。

二人で、そっと近寄って行く。

こちらに顔をむけて眠ってる松本は、昨日と同じで、相変わらず顔が青白い。

閉じられた瞼のせいで、高い鼻と彫りの深さが際立っていて、美術館にある、彫刻みたいだと思った。


「……顔色悪いなぁ……」


従兄弟さんが、手のひらをそっと額においても、松本はぴくりともしなかった。

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