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キラキラ

第35章 屋烏之愛



息もできないくらい、ぎゅうっと抱き寄せられて、震えてた体も心も落ち着いてゆく。


「……松本さん……」


俺は、おずおずと松本の背中に手をまわした。

彼の体操服は、汗でしっとりと湿っていて。
燃えるような熱さの胸は、広くて大きくて。

彼の腕に、この身をまるごと預けているこの瞬間が、何よりも安心できる。


「カズ……」

「……はい」

「ごめんな……俺、来るのが遅かったな……怖かったな」


頭の上から降ってくる懺悔。

俺は、ふるふる首を振る。

俺様松本が、簡単に謝んないでほしい。
そもそもは、俺の油断がまねいたことだ。


「……俺が不用意に近づいたからです。松本さんは悪くない」


そうだ。
だって、中庭であの人を見かけたという事前情報はあったもの。
もっとも、那須が危険な人だという認識は俺にはなかったけれど。


俺の小さい声に、松本は、違う、と言い、俺の髪に頬を寄せた。



「気になって……見に来てよかった」


俺はなんだか、胸がいっぱいになった。

怖かったけど……こんなにも松本に大切にされてることを知ることができたのは、嬉しいことかもしれない。

俺はつま先立ちになり、松本の胸にぎゅっとしがみついて、小さく呟いた。


「……助けてくれて、ありがとうございました」



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