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キラキラ

第35章 屋烏之愛


「ちっ……」


違います!と、否定しようとしたら、一瞬早くその人が、「は?」と言った。
そして、そのかわいらしい顔を歪め、静かに俺を指差した。


「俺、さっきまでバス乗ってたじゃん。どうやってこの子襲うわけ?」

「たった今傷つけた可能性だってあるだろうが!」

「……馬鹿馬鹿しい」

「……んだと、こら」


その人の胸ぐらをつかみかける勢いで、ヒートアップしてゆく相葉先輩に、俺は慌てる。


「相葉先輩……!違います!」


この可愛い人はお節介な人ではあるが、犯人にされる筋合はないだろう。
相葉先輩の腕を必死でつかんで首を振った。


「じゃあ、その血はなに?」


相葉先輩が顎で俺の首もとをさす。

襟元から手を離したせいで、ボタンのとれた襟元は首が露になっている。


「これ……は……」


二人の視線を感じ、言い淀んでいた俺は、思わずうつむいた。
ほんとのことを言うのはカッコ悪すぎる。
でも、ここは正直に報告しないと収拾がつかない気がする。


「あの……」

「誰につけられた」


そこへ、俺を一番甘やかしてやまない男の声が割り込み、思わずその場にへたりこみそうになった。


どうしてこんなタイミングでみんな集合すんの??


あとで聞けば、二年の教室から二番目に近いのがここのトイレだったようで、二年生はちょくちょく現れるのだそうだ。

俺は、咄嗟とはいえ、このトイレを選んだことを後悔しながら、声の主を振り仰いだ。


そこには、一日ぶりにあう松本が、冷ややかな瞳で立っていた。

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