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キラキラ

第35章 屋烏之愛


しばらくそいつは黙っていたけれど、俺も絶対に何も言うまい、と、頑なに口を閉ざすものだから、平行線だ。
やがて、そいつは根負けしたのか、やれやれというように肩をすくめた。


「まぁ……俺には関係ないか……」


と、つぶやき、ようやく手を離した。


お節介な人だ。
ほっといてくれ……と、俺は、じんとする手首を擦りながら、黙ってその場を離れようとした。


ところが、こちらから扉を押したのと、あちらから引いたのが同時で、誰かと鉢合わせする。


「わ!びっくりしたー。あれ?二宮?」


声を聞いて、足がすくんだ。
とっさにうつむいた俺は、襟もとがみえないようにぺこりと礼をした。


「サボり?やるねー」


朗らかにからかってくるこの声の主は、相葉先輩。

この先輩は、俺は苦手だ。
アホそうにしてるが、じつはすごく周りを見ていて、調和を大事にしていて。


「……どした?その傷」


変化にめざとい。


やばい。こんなん説明するの超恥ずかしいしカッコ悪い……。


俺は、なんでもありません、と早口で答え、駆け出しかけたが、腕をぐっとつかまえられた。


驚いて振り返ると、相葉先輩の視線は、トイレの中に向けられていて。


「ネンチー……?」


相葉先輩が眉を吊り上げて、俺を引っ張った。


「あいつにやられたのか?!」

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