
キラキラ
第35章 屋烏之愛
「……何してるの?」
俺と、さほどかわらない背格好の男子生徒が、厳しい顔をして俺の手首を掴んでいた。
「……ほっとけよ」
見られた恥ずかしさと焦りで、その質問を早口でぶったぎった俺は、その手を振り払おうと力をこめた。
だが、まさかのそいつの力の方が上で、びくともしない。
俺は抗議じみた目をもう一度向けて、さらに力をこめるが、そいつはどんな馬鹿力をしてるのか振り払えない。
「……離せよ」
「ダメだよ。この手を離したら君は自分を傷つけるでしょう」
凛とした声で、断られる。
俺は苛立つように舌打ちした。
「ほっとけって言ってんだろ……つか誰?」
見たことないやつだ。
涼やかな瞳は、さっき別れた大野に似ている気がする。
笑えば、きっと可愛らしくなるんじゃないかというような、童顔の持ち主だった。
視線を落とすと履いてる靴のラインは赤。
「……二年?」
「そ。さっきバスで芸術鑑賞会から戻ってきたとこだよ。トイレが混むの嫌だから、こっちの校舎来たんだけど……おまえ一年だろ?授業中だろ。なにやってんの」
「……なんでもない」
「……そうはみえないけど」
俺は、ぷいと顔を背け、ポロシャツの襟を片手でしっかりとあわせる。
思い切り爪をたてたせいで、傷がヒリヒリして痛かった。
「……血がついてるよ」
指摘されたけど、それが首なのか、肘なのか。
よくわからないから、俺は、知ってる、と仏頂面で跳ね返した。
