
キラキラ
第35章 屋烏之愛
すったもんだの末、傷口は、無事絆創膏でみえなくなった。
だが、キスの痕跡と、とれたボタンだけでも、事件性が問われるほどのインパクトは十分だった。
どうしよう……こんな姿じゃ帰れない。
さすがの菊池たちでも、裁縫道具までは持ってないという。
女子じゃないんだからあたりまえだといえよう。
ケンカ用とはいえ、絆創膏もってるだけで奇跡だった。
仕方がないから、暗くなるまで校内に潜んでいようか……と本気で考え始めたとき。
「ジャージ。貸してやろうか」
菊地が持ってる鞄から、ちらりとそれを見せた。
そこで、あっと思い出した。
「…そっか…俺も午前中体育があったから、体操服持ってます」
「……体操服だと、首、丸見えじゃね?」
「……これよりマシです」
言って、ボタンのない服を引っ張ると、菊池は、まぁ……そうだな、とうなずいた。
放課後までここにいれば、と大野は、言ってくれたけれど、松本と仲が悪いとわかっている人たちのもとにずっといるのも気が引ける。
「便所の鏡で見て、首が気になるようならこれも貼ればいい」と、もらった新しい絆創膏を手に、俺はお礼をいって、6時限目の途中で、そっと屋上をあとにした。
裏庭は松本たちがいるかもしれないから、体育館の裏の端っこで時間をつぶそうと思った。
人が少なくなったら、ダッシュで教室に帰ろう。
そしてトイレで着替えたらいい。
