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キラキラ

第35章 屋烏之愛


しかし、そこは甘かった。


「あ。おい!!」


すぐに、背中で俺に気づいた声がした。

ダメか!と思ったけど、走りだした足は急にはとまらない。

待て!とか、なんとか怒鳴る声が聞こえたけれど、後ろを見ないで走った。



やだよっ


逃げるその先なんて考えてないけど、とりあえずこの場から離れたい。
そんな短絡的な考えにとらわれた俺は、周りがみえてなかった。

加えて俺は、そんなに運動神経があるわけではなく。

前から歩いてきた生徒を避け、階段をかけ降りようと思った足が……妙な浮遊感を感じた。


あ、落ちる。


手すりに伸ばした指も空をきったのが分かり……


うそだろ……!!


階段から落っこちる自分が、目の裏にみえた。


とことんついてねぇ!!


体を強打する衝撃を覚悟して、思わずギュッと目をつぶった。



瞬間。
とんでもない力で腕を反対側に引っ張られ。


「……わあっ!」


重力にまかせ、階段下に落ちようとしていた体は、真逆の廊下に倒れこみ、リノリウムの床ではなく、誰かの体に抱きとめられた。

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