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キラキラ

第5章 hungry


外に出ると、ヒヤリとした空気に包まれた。

秋が深まり、冬に向かうこの季節。
太陽が沈むのも、日に日に早くなり、し気温も一気に下がってゆく。

俺は、薄暗がりの中、階段を五、六段おりたところで、足をとめ、そのままドサッと座り込んだ。


………自己嫌悪。

両手を髪の毛につっこんで、頭を抱えた。

あんな風に怒鳴るつもりはなかった。

雅紀にだって、かみつくつもりだってなかった。

「サイテーだ……」

分かってる。

俺が、イライラしてるんだ……。

自分の心が読めなくて。
この間から、……大野さんと出会ってから、ずっとずっと、この揺れ動いてる気持ちがまとまらなくて、向き合えなくて。

挙げ句の果てに、周りに八つ当たりだなんて……な。

「はあ……」

……私情を持ち込んだらダメだよな。

ためいきをついて、唇をかむ。




「冷えるよ、翔ちゃん」

頭上から温かい声が降ってきた。

顔をみなくても、ヤツがどんな顔をしているのか分かる。

いつでも、自分より他人のことを考えて、人の痛みや悩みまで抱え込んじまうお人好し。

……俺のさっきの暴言なんか、気にもとめず、いつもの俺じゃない心配だけをしてるんだろう。

そんなやつだ。

相葉雅紀という男は。


「はは…確かに寒いわ」

俺は、むき出しの肩をさすって、……笑ってみせた。

雅紀は、にこりとして、俺の隣に腰かけた。

「…どーしたの。らしくなかったよ」

「………ごめん…」

「ふふっ……いいよ。貴重なものみれたから」

雅紀は笑って、てにもってたペットボトルの水をごくごく飲んだ。

「……いる?」

そのまま飲みかけのボトルを差し出されて、頷いて受けとり、俺も冷たい水をあおった。

……大分落ち着いた自分に気づく。


「ごめん。ちょっと……イライラしてた」

「うん」

「……もう大丈夫だから」

「うん」

「……なんか。今日はお前と、プレーがしたいな……」

「なんだ、それ」

唐突な俺の言葉に、雅紀は、くふっと笑い声をもらした。

試合のときの、ものすごい集中力の中、とぎすまされた感覚をフルに使って、ポイントを奪ってゆくあの緊張感と高揚感。

今、無性に味わいたい。


「はいはい。また練習試合組むからさ。待ってて」













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