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キラキラ

第33章 🌟🌟🌟🌟🌟


「うん。それは伝えた。でも、タエさんが正式にご結婚されたら、そーいうわけにもいかないみたいよ」

「……それは困ります」

「どうして?王子になれるのよ?言葉は悪いけど、もう食いっぱぐれることはないわ」


カエラが不思議そうな顔をした。
俺が、ただの街の花屋の孫であることを指しているのだと思った。
でも、そんなことじゃないんだ。


「俺は……そんなことに興味はない」

「……カズは欲がないのね」


カエラは、あきれたように笑った。


欲がないんじゃない。
愛する人のもとに帰りたいだけだ。


言うに言えず。
カエラのその笑顔に、俺の大事な人を重ねた。

カエラは顔一杯で元気に笑う。
対して、サトコ様は……はにかんだように控えめに笑う。
でも時々、顔をくしゃりとさせた笑顔をみせる。
俺はその顔が何より好きだった。


今頃何をしているだろう。
俺が戻らないから、少しは寂しがってくださってるだろうか。

……サトコ様を思うと、胸がぐっと苦しくなる。


振り切るようにグラスをあおる。
そんな俺を気の毒そうに見てたカエラが静かに口をひらいた。


「……かわいそうだけど、カズが、ここに残らない選択肢をとるなら、タエさんは結婚できないと思うわ」

「どうして」

「跡取りがいなくなるから」


……目眩がする。

俺の意思が母さんの結婚を阻んでるのか?
母さんがタクヤ様と一緒になるためには、俺がここにいないといけないのか?

俺を嫌がる人もいるなかで?

いてもダメ。
いなくてもダメ。


「じゃあ……どうしたらいいんだよ……」


呟く俺の言葉を、カエラは受け止めるように、そうね、と頷いた。


「どうにか……うまくすべてがおさまるように、タクヤおじさまが奔走中よ」


カエラの声が遠くに聞こえる。


大それた願いなんかない。
俺の想いはただひとつ。

……サトコ様のそばに帰りたいだけなのに。

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