
嵐の俺と、パパの俺。
第2章 なにがどうなって
結局智くんを一人で風呂に行かせ、
俺はテレビをみて待つことにした。
この世界のテレビはどんな番組が放送されているのだろうか、とわくわくして付けたが、どれも見たことのある番組だった。
なんだ、
番組までは違わないか。
いや待てよ、
嵐の番組はどうなってる?
そもそも嵐というグループは存在しているのか?
でも仮に存在していたとしたら、
メンバーは誰なんだ?
しばらく夢中で考え事をしていたせいか、目の前に智くんがいたことに気付かなかった。
「風呂、次は入りなよ」
「えっ、あ、うん!」
びっくりした。
慌てて風呂場へ向かおうとして、
振り返った。
「ねえ、智くん、嵐っていうジャニーズグループ知ってる?」
嵐は(自分で言うのも何だけど)国民的な人気と知名度を誇るグループだ。
だから、もしこの世界に嵐が存在するならば、テレビに疎い智くんでも知っているんじゃないかと思った。
「嵐?うーん、聞いたことないけど」
じゃあこの世界には嵐は存在しないのか?
「じゃあジャニーズは?」
これはさすがに。
「ん?ジャニーズ?なにそれおいしいの?」
えっっ
もしかしてジャニーズという枠組みすら存在しないのか?
なんかショック、かも。
がっくり肩を落として風呂場へ向う俺を、智くんは不思議そうな顔して見ていた。
もしかしたら智くんが知らないだけかも、と勇気を持ってネット検索をしてみたが、嵐というグループも、ジャニーズという事務所もこの世界には存在しないことがわかった。
熱めのシャワーを浴びながら、嵐だった自分を思い出す。
もう戻れないのだろうか。
嵐が存在する世界には。
あれだけこの世界でがんばると決意したはずなのに、いざ嵐のことを考えだすと、寂しい思いが溢れ出てきた。
「あぁもう、わけわかんねぇ」
そもそもなぜ俺はこの世界に来たのだろう。
