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10年恋

第5章 第五章


寂しそうな表情をしたままのニノに、

これ以上何も言ってほしくなかった。


それは、これ以上傷ついて欲しくないというニノへの想いと、

これ以上何も知りたくない、という自分勝手な思いがあったからに違いない。


ニノの言葉をスルーして、
お茶を入れるためにコップを2つ棚から取り出した。

いつしかの誕生日に、ニノがくれたお揃いのカップ。

青いのが俺ので、

黄色いのがニノのもの。



「まあ俺は翔さんに」


「ニノ!!」


口を開きかけたニノを
咄嗟に遮った。

ニノは少し驚いた顔をしたけれど、
それは一瞬だけだった。


「聞かないんですね」


聞かないんじゃない。

聞かなくてもわかるから。

ニノの表情みれば、

嫌でも伝わってくるよ。


それに、

どこかホッとしている自分がいた。

それがなんだかイヤだった。


「何年付き合ってると思ってんの?ニノの思っていることはわかるよ。」


そっと差し出したお茶の入った黄色いコップをニノはゆっくりと受け取った。


「こーゆうときばっかずるいよね、普段の俺の気持ちなんて知らないくせにさ」


たしかにそうかもしれない。

でもニノは演技がうまいから。

ニノはいつだって思いを表情にださない。

つらいときも、苦しい時も笑ってるから気付けないんだ。


いつも今日みたいに

思いのままの表情をだしてくれれば

気付けるのにな。


「ごめん、、、知らなかった」

ニノが翔くんを好きだったことも、

その思いと葛藤していたことも。


「智は恋に関してはとくに鈍感ですからね、自分のことですら」


うふふ、と控えめに笑ったニノ。

あ、いつものニノだ。


さっきまでの悲しさと寂しさばかりを漂わせていたニノとは違う。





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