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10年恋

第1章 第一章

智side


「おい智、はやくしろよ!」

玄関から聞きなれた声が、さっきから鳴り響く。

慌てて制服に袖を通し、カバンをつかんで玄関に向かうと、不機嫌な顔をしたニノがいた。


「もー、あなたのせいでいつも遅刻ギリギリだよ」

ふくれっつらのニノ。かわいくて思わず笑ったら、頭を叩かれた。


「ごめんって。ニノにはいつも助けられてるね、ありがとう!」

相変わらず不機嫌なままのニノに謝る。ニノはなにも言わずに歩き出した。
俺も慌てて鍵をかけ、その後ろ姿を追いかけた。



俺には父親も母親もいない。
去年、事故で亡くなった。
それから始まった一人暮らし。
遠方に住む祖母からお金の援助を受けつつ、バイトでなんとかやりくりしている。
ニノは近くに住んでいる。
1人暮らしを始めてから、いつも遅刻してくる俺を見かねて、こうして毎朝迎えに来てくれるようになった。
ニノにはとても感謝している。
ほんとうに大切な親友だ。




学校につくと、妙に教室が騒がしかった。女子からは黄色い悲鳴が上がっている。
何事かと、ニノと顔を見合わせる。

「あ!二宮くん、大野くん、おはよ!」

クラスでマドンナ的存在の優衣が、キラキラした笑顔でやってきた。

「おはよ、なんか騒がしいみたいだけど、どうかしたの?」

ニノが尋ねると、優衣は嬉しそうに応えた。

「今日ね、東京から転校生が来るんだけど、さっき教務室で見たの!すっごくイケメンだった!」


転校生?
しかも東京から、わざわざこんな田舎に。
しかもしかも、イケメンかぁ~ちょっと気になる。


優香はほかの女子に呼ばれると、じゃあね!と言って駆けていった。


ニノを見ると、呆れた表情で彼女を見つめていた。


「あいつも相変わらずのイケメン好きだな、ま、お前もだけど!」


どうやら思っていたことは、ニノ
にはばれていたようだ。


「イケメンは好きだよ!だからニノも好き」

ニノはイケメンだ。
かわいいイケメン。
でもこれを言うと必ず怒る。


「イケメンだからって誰に対しても好きとか言うなよ、あいつに怒られるぞ。」


ニノの言葉に、自分の顔が赤く染まっていくのが分かる。熱い。


「べ、べつに!ニノの好きと、潤の好きとは違うし!!」


ニノがニヤリと笑みを浮かべたのと、潤が後ろから抱きしめてきたのはほぼ同時だった。



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