
10年恋
第4章 第四章
観覧車にはあまり並ばずに乗ることができた。
二人きりの狭い空間。
なんだかドキドキする。
「今日は翔くんとふたりきりで遊べてよかった」
そう呟くと、
翔くんはえっ?って顔をしてこちらをみた。
「だっていつもふたりきりで遊ぶの、断られるもん」
悲しかったんだよって言葉は胸にしまった。
「ごめん」
俯いて謝る翔くん。
別に謝って欲しいわけではないのに。
「でも今日こうして遊べたからよかった!」
心からそう思う。
もし、潤が来てたらふたりきりなんてことはなかったんだろうな。
そして俺はある異変に気付いた。
観覧車が上昇するにつれて、
翔くんの様子が明らかにおかしくなっていく。
「えっ、もしかして」
高所恐怖症?
翔くんは否定することなく頷いた。
「おれ、ダメなんだ。高いとこ」
え、さっき大丈夫って言ったじゃん。
まったく、
翔くんはむりしすぎなんだ。
「手」
出して、って言うと、翔くんは不思議そうな顔をした。
「手、繋いどけばちょっとは落ち着くと思う」
無理矢理翔くんの手を握った。
ちょっと汗ばんでて、
思わず笑みが溢れる。
無理、しすぎだって。
「智くんは、松本のこと好き?」
しばらくの間ずっと外の景色を眺めていたら、ふと翔くんが聞いてきた。
突然の質問に驚いていると、翔くんが苦笑いした。
「まあ、付き合ってるんだから好きに決まってるよね」
何聞いてんだろ俺、って呟きながら頭を掻く翔くん。
じっと見つめていたら、翔くんの真っ直ぐな瞳と目があった。
「翔くんは、好きな人いる?」
何も考えていなかった。
だけど、知らず知らずにこぼれた言葉に、翔くんは少し戸惑っていた。
「いるよ、片想いだけど。」
少しの沈黙の後、翔くんはそう言って笑った。
叶うことない片想いをしてる、って。
「叶わないの?どうして?」
どうしてそんな切ない片想いをしているのだろうか。
「好きな人には恋人がいるんだ。俺の入る隙間はないよ。」
夕日に照らされた翔くんの顔は、どこか寂しそうで、俺まで悲しくなった。
