
泣かぬ鼠が身を焦がす
第35章 秘事は
「俺が物心ついた時にはいなかったな。離婚していたらしい」
離婚……
じゃあ拓真さんは
天涯孤独……?
俺が考えを巡らせていると、拓真さんが苦しそうに口を開く
「……母の死因は、交通事故だった」
「事故……」
「居眠り運転していたトラックが歩道に突っ込んできて、巻き込まれたんだ」
俺の手を握り返していてくれた拓真さんの手に少しだけ力が入ったのがわかる
「俺はその時一緒にいたのに…………助けられなかった……」
絞り出すようにそう言う拓真さんに俺はどう声をかけていいのかもわからず、ただ涙を流すことしか出来なかった
「顔ぐちゃぐちゃになってるぞ」
拓真さんが俺を見て少しだけ表情を和らげる
「だ、っで……ぅ……」
「……今日連れて行った店は、俺が墓参りに来る度に寄っていた店なんだ」
喫茶店とかお花屋さんのこと……?
でも久しぶりって言われてたってことは
「暫く、来てなかったの?」
俺の質問に拓真さんはまた視線を前に戻す
「あぁ。忘れていたわけではなかったが…………そうだな、怖かったんだ」
怖かった?
どうして?
「ここに来ると、母が俺を責めてるように感じるから……」
