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泣かぬ鼠が身を焦がす

第35章 秘事は


そんなことない
絶対、そんなことない


そう声をかけてあげたかったけど、きっとそんなことは今まで誰もが言ったことだと思うから簡単には口に出せなくて


「……」


何も言えないまま黙り込んでしまった


俺がもっと大人なら良かった
そしたらきっと気の利いた言葉も、掛けてあげられたのに


交通事故なんて、しかもトラックが突っ込んできたとか
どうやったって避けようがない

不謹慎だって言われるかもしれないけどむしろ、拓真さんが変に動いてたら拓真さんも今ここにいられなかったかもしれない

でもこんなこと、絶対言えないじゃん


俺と同じように黙ったままの拓真さんに、俺は様子を伺いながらたずねてみる


「まだ……お母さんは責めてるように見える……?」


お墓は何も言わずにひっそりとそこに佇んでいて、静かな場所に微かに波音が聞こえていた

拓真さんは長い時間をあけてゆっくりと口を開く


「………………いや、今は……喜んでるように見える」
「喜んでる?」
「あぁ」


どうして喜んでるかって理由の説明はなくて、拓真さんは静かに俺に視線を移した

そして


「座るか」


と俺に言って石段に腰掛ける

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