
泣かぬ鼠が身を焦がす
第25章 合縁奇縁
俺が服を着替え終わると、拓真さんもスーツに着替え終わっていた
「準備はいいか?」
「うん」
息を深く吸って、吐く
さっき伊藤さんが来て、母さんは社長室に通してあると言われている
つまりは
この扉の向こうに
母さんが、いる
拓真さんが俺の隣に来て俺の背中をぽん、と叩いてくれた
「行こう」
拓真さんがそう言って、扉を開いて先に社長室へ入る
俺もそれに続いて社長室へ入った
「純……!!」
顔を上げられず俯向く俺の耳に、母さんが俺の名前を呼ぶ声が響く
「落ち着いて下さい」
と母さんを戒める伊藤さんの声
「お待たせして申し訳ありませんでした」
拓真さんが謝罪を口にして、立ち上がっていた母さんを応接セットに座るように促す
母さんと拓真さんが座って、俺も少し遅れて拓真さんの隣に座った
「本日はご足労頂きありがとうございました」
「……いえ、こちらこそ。純を今までお世話して頂きありがとうございました」
今まで
ありがとうございました
っていう単語に俺の神経が逆なでされる
帰らねーよ!!!
俺はお前らのところになんか、絶対!!!
叫びそうになるのを必死で抑える
