
泣かぬ鼠が身を焦がす
第25章 合縁奇縁
拓真さんが今まで見たことないほど険しい顔をする
「今すぐ……か」
「受付にいらっしゃっているので、あまり待っては頂けないかと」
「……」
どう……しよう……
伊藤さんの報告を聞いて、少し考えるような仕草をした拓真さんは
「……女性を社長室へ」
と指示を出した
「わかりました」
伊藤さんはそれを了承して、部屋から出て行く
「純、着がえろ」
「……え……」
拓真さんが俺に向き直って言った言葉にドキッとした
出て行け、ってこと?
いや拓真さんが言うなら
行くしかない、けど
俺の不安が拓真さんにも伝わったのか、安心させるように笑ってくれる
「勘違いするなよ。お前を帰したりするわけないだろう」
「ん、うん……」
「大丈夫だから、安心しろ」
「……うん」
拓真さんが俺の方へ寄ってきて、一瞬だけぎゅ、と抱き締めてくれた
離れた拓真さんは、俺を準備させるために背中を押す
「……」
あの人に、会わなきゃいけないのか
もう一生会わないと思ってたのに
なんで今更
俺のことなんて
どうせ忘れてたくせに
探してたわけでもないんだろ
くそ
俺は着替えて、母さんとの対面に備えた
