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泣かぬ鼠が身を焦がす

第11章 昔離れたあわせもの


ゆっくり落ち着くと、今日の藤本のことが思い浮かんできた


藤本は前の俺の飼い主
そして、俺をいらないって捨てた男

別に恨んでるとかそういうんじゃない
嫌いでもない

けど、杉田さんといる時に会いたくなかった


なんて言うのかな
俺の、汚いところ見られてるみたいっつーか

藤本が汚いんじゃなくて
俺が


「……」


やっぱり、ウリ……とか
やってたら杉田さんに相応しくないよな

好きになる権利すらないような気がして

息がつまる


死にそう


生まれ変われるわけなんてない
わかってるけど

今は全部
俺の全部を

消してしまいたい


杉田さんが好きって感情だけしか
綺麗じゃない


別に風呂にどれだけ入っていても何も浄化されたりしないんだけど、なんとなく風呂から上がれなくて

だらだらと浴槽の中で過ごす


どーしよ
結局ヒトミさんに何も相談出来なかった

会えたのは嬉しかったけど


「んー……んー……」


俺の唸る声と、水が跳ねる音だけが響いた

浴槽の淵に頭を預けて目を瞑る
手足からも力を抜くと、広い浴槽の中で少し身体が浮いた


何にも考えたくない
それに、すごく眠い

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