燕尾服は似合わない
第1章 王の終わり
その穏やかな笑みに、背筋が凍りつく。
掴んでいた俺の腕を払い落とすように手を離すと、一歩、また一歩と静かに距離を詰めてきた。
「…ッ…や、やめ…っ」
「伊織。そこまでだよ。」
鶴の一声。まるでその命令を待っていたかのように、執事の動きがピタッと止まった。
「仰せのままに。」
「もう、まったく。学園で躾はご法度だよ。」
"王子"は小さく肩をすくめると、困ったように笑った。
周りの女共は顔を見合せ、その笑顔に安心したかのようにクスクスと笑った。
「伊織は少し過保護なんだ。驚かせてしまったなら謝るよ。」
そう言いながら俺へ歩み寄る。
だが、その澄んだ瞳には先ほどと変わらない冷たさが宿っていた。
「君…神城くんだね。お噂はかねがね。僕に何か用があったのかな?」
穏やかな口調。
だがどこにも逃げ場はない。
「あはは、君がそんなに萎縮してるのは初めてみたよ。クラスメイトも驚きだ。
…用がないのならばまた…と、行きたいところだが、
生憎僕の方が君に用があってねえ。」
「…ッ…よ、用って…なんだよ。」
虚勢を張ろうとも、うまく言葉が出てこない。
ガキの頃から喧嘩しかしてなかった。
格闘家の輩ですら俺の拳を受け止められなかったのに。
こいつの執事はそれを平然と成し遂げた。
その事実だけが俺の頭をぐるぐると巡る。
「ここでは話せない話だから、場所を変えたいのだけど…どうやら、それも難しそうだね。」
その言葉に、執事が阿吽の呼吸で小さく頷いた。
その瞬間———
「…っはぁっ?!」
ふわりと体が宙に浮いた。
気が付けば俺は、執事に担ぎ上げられていた。
「ご安心ください。丁寧にお運びいたします。」
「俺様は荷物じゃねえよ!」
——今となれば、
毎日おなじことの繰り返し。
退屈で、真っ暗だった俺様の日常に、
月が登り、太陽の光が差し込んだ。
この時の俺はまだ知らなかった。
数日後、俺が燕尾服を着て紅茶を淹れることになるなんて。
掴んでいた俺の腕を払い落とすように手を離すと、一歩、また一歩と静かに距離を詰めてきた。
「…ッ…や、やめ…っ」
「伊織。そこまでだよ。」
鶴の一声。まるでその命令を待っていたかのように、執事の動きがピタッと止まった。
「仰せのままに。」
「もう、まったく。学園で躾はご法度だよ。」
"王子"は小さく肩をすくめると、困ったように笑った。
周りの女共は顔を見合せ、その笑顔に安心したかのようにクスクスと笑った。
「伊織は少し過保護なんだ。驚かせてしまったなら謝るよ。」
そう言いながら俺へ歩み寄る。
だが、その澄んだ瞳には先ほどと変わらない冷たさが宿っていた。
「君…神城くんだね。お噂はかねがね。僕に何か用があったのかな?」
穏やかな口調。
だがどこにも逃げ場はない。
「あはは、君がそんなに萎縮してるのは初めてみたよ。クラスメイトも驚きだ。
…用がないのならばまた…と、行きたいところだが、
生憎僕の方が君に用があってねえ。」
「…ッ…よ、用って…なんだよ。」
虚勢を張ろうとも、うまく言葉が出てこない。
ガキの頃から喧嘩しかしてなかった。
格闘家の輩ですら俺の拳を受け止められなかったのに。
こいつの執事はそれを平然と成し遂げた。
その事実だけが俺の頭をぐるぐると巡る。
「ここでは話せない話だから、場所を変えたいのだけど…どうやら、それも難しそうだね。」
その言葉に、執事が阿吽の呼吸で小さく頷いた。
その瞬間———
「…っはぁっ?!」
ふわりと体が宙に浮いた。
気が付けば俺は、執事に担ぎ上げられていた。
「ご安心ください。丁寧にお運びいたします。」
「俺様は荷物じゃねえよ!」
——今となれば、
毎日おなじことの繰り返し。
退屈で、真っ暗だった俺様の日常に、
月が登り、太陽の光が差し込んだ。
この時の俺はまだ知らなかった。
数日後、俺が燕尾服を着て紅茶を淹れることになるなんて。
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