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燕尾服は似合わない

第1章 王の終わり

くだらない。

 たかが名前を覚えられていたくらいで何がそんなに嬉しいのか。

己の立場を忘れている無様な女共に喝を入れようと、机の脚を思い切り蹴った。
鈍い音が教室に響き渡る。

 反応がない。

誰も気にもとめない。

 …おかしい。

 こんなんじゃまるで、このクラスの王様はアイツじゃないか。

「…わからせてやるよ。」

整った顔立ち、高い鼻。
 遠くからでもわかる、フワフワしたまつ毛。
 
 今俺が、全部ぐちゃぐちゃにしたら周りはどうする?

 「…おい…神城くん…なんかキレてね…?」

 俺はフラフラと立ち上がり、連日の喧嘩で血が滲む拳を強く握りしめた。

想像するだけで口角が上がる。
これから起こすのは革命だ。

 一歩、また一歩と華宮へ歩み寄る俺の姿を見て、先程までギャーギャーと耳障りな声を上げていた女子共が途端に黙り出す。

その張り詰めた空気を切り裂くように、隣に控えていた執事が静かに口を開く。
 
「お下がりくださいまし。」

 「…ッ……?!」

瑠璃色の瞳が俺をまっすぐと見ていた。
吸い込まれそうなほど、綺麗なビー玉。

その美しさに思わず息を呑む。
 だがそれを悟られまいと睨み返した。


 「てめえに用はねえ。そこの"王子様"、面貸しな。」

「聞こえませんでしたか。お下がりくださいまし。」

冷静に淡々と話す口調の裏に、確かに殺意を感じた。

普段は俺が通れば大人しく道を譲る女共が、今日は王子を守る女騎士にでもなったつもりか、揃って俺を睨みつけていた。

「んだよ、てめえら。そんな顔したら可愛い顔が台無し…あぁ、ブスしかいねえかあ。
 …まあ、いいや。クソ執事、てめえから殺してやるよ…っ!」
 
怒声を上げると同時に、拳を振りかぶって殴りかかった。

 しかし、執事は眉一つ動かさない。

——その瞬間、俺の拳を片手で受け止めると、小さくため息をついた。

「……は。」

唖然と立ち尽くすしかなかった。

「威勢がいいだけの弱者は見ていて飽きませんね。」

 一気に騒がしくなった周りの雑音が気にならないほど、
 俺は呆気にとられていた。

「これは大変愉快でございます。では、お礼にわたくしが貴方様へ躾を施して差し上げましょう。」

 先程まで一切表情を変えなかった執事が、初めて笑みを浮かべた。

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