SAKURA (さくら)
第5章 八重桜 1 弥生
弥生…
いつからだろう…
「………なんか、弥生も忙しそうだな…」
「…あら…気にしていただけてたの?」
「…あ、当たり前だろう……」
「そう…でしたか……」
言葉に、棘が生えてきたのは――
「新年度なんで、若い社員と新規顧客に、同行しようかなって……」
「そ、そうか…」
「はい…」
「いや、いいんだ………」
カップを持つ手が、遅れ…
今、何を話そうとしたのかしら――
「あ、いや……」
「あなた…も……ね……」
気付いたときには…
お互いに、挨拶も、交わさなくなってしまった。
心の隙間が、広がるばかり…
もう…
戻れない、のかもしれない―――
ソメイヨシノの、一瞬の煌びやかさの後…
重なり続け…
散り急がずに、積み重なり…
終わったはずの春が、まだ、穏やかに続いている。
幾重にも重なる八重桜―――
八重桜
重ねて消えぬ
色ありて
戻れぬまま
春は過ぎゆく
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