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アシスタントで来ただけなのに…!

第1章 鬼才漫画家、市川ルイ




「加奈子!おかえり!」



家に着くとすぐさま母が出迎えてくれた。



「…うん、ただいま」



静かに靴を脱いで、母を横切った。



「っえ、ちょっと加奈子…!」



朝とは全然違う私のテンションに母は戸惑っていた。



「どうしたのよ!面接は?どうだったの?」



「…あぁ、受かったよ。今週から来てほしいって」



「そうなの!?すごいわ!おめでとう加奈子!」



「…うん」



私は鞄から母の作ってくれた弁当を手に取った。



「ごめんねお母さん、食べる時間なかったから部屋で今食べるね」



「そうなの…?結構時間かかったんじゃない?」



「…まぁね」



言えない。市川ルイ本人にあんなことされたなんて。


そして働く場所がお化け屋敷だなんてことも言えない。



「…お母さん、あのね、寮があるらしいんだ」



「寮?そうなの?そんなの書いてなかったじゃない」



「…面接の時に言われたの。できれば今週中に来てほしいって」



その言葉に予想通り母は声を上げた。



「今週!?ちょっと!今日は金曜日よ!?荷造りも荷物の配送手続きも色々あるじゃない!」



「言うて1時間半くらいの距離だから、必要最低限のものだけ持って行って、他はゆっくり運ぶよ」



そう言って私は、フラフラの足で部屋に向かった。



「ちょ、ちょっと待って加奈子!まだ話が!」



「…お母さんごめん。今日疲れちゃって」



「でも私、できるだけ明後日までには寮に行こうと思ってるから、それだけは許してほしいな」



母はまだ何か言いかけてたが、私はそれを無視して部屋に向かった。



寮なんて、ないのに。


本当はルイ先生と共同生活をするのに、言えなかった。



喜んでくれるのか、疑われるのか分からなかったから。



部屋に入り、扉を閉めてそのまま膝から崩れ落ちた。



「っ疲れた…」



ジャケットを脱ぎ捨てて、テーブルの上に母のお弁当を広げた。



色とりどりで私の好きな具材も入っていた。



「…いただきます」



手を合わせて母の愛がこもったお弁当を口にする。



冷めていても母の愛を感じ、ほんのり胸が温かくなった。


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