小中大テキストサイズ

幻想遊園地

第8章 第8話:恋物語

☆☆☆
【180秒の恋物語】

「5時32分か・・・」
私は左手をくるりと返して、腕時計の文字盤を見る。つぶやきとともに、ため息も一緒に漏れた。

5時・・・

秋の街は、様相が一変する。
薄暗くなり始めた空と慌ただしく帰路につくサラリーマン、そして、待ち合わせをしているだろう恋人たちを横目に、私はうつむいて、またひとつため息をついた。

ガードレールにもたれる私の後ろに流れるヘッドライトの河と、誰に対しても無関心な人々が行き交う様子を見ていると、ふと、ここに立っている『私』って一体何なんだろうと、自分を見失いそうになって怖くなる。

白いブラウス
少し厚手の青いスカート
肩から下げたバッグには、少しの荷物

そうだ。
私、私はいる。ここにいる。
ずっといて・・・あれ?なんでいるんだっけ?

ここにきて私は、少し前にも同じことを思ったよなと思い出す。

『私は一体何のためにここにいるんだっけ?』

それでも思わずにはいられなかった。何度も繰り返した問を、再び自分に投げつけていた。そして、何度投げつけても、その問の答えを見つけられない自分に驚いた。

また、視線が宵闇に沈み始めた街にさまよいだす。

さっきからこの繰り返し。

問いかけ、諦め、視線がさまよい、また問いかける。
長いこと続けてきたような気もするし、
ほんの数分のことにも思えた。

『一体私は何をしていたのだろう?』

また考え、見つからない答えに鼻の奥がツンとする。
ふらりと街を視線がさまよう。

また・・・同じ事の繰り返し・・・
・・・あれ?

私の視線がある一点に止まって、そこから動かなくなった。

『女の・・・人?』

私の視線の先には一人の女性が立っていた。

年齢は40歳くらいだろうか?
私より大分年上に見えた。
少しうつむき加減で、
肩までの髪、白いセーターとチェックのスカートを着て、
後ろ手にレンガ造りのビルの壁にもたれていた。

『あゝ、私に似ているな・・・』

顔も服装も、年齢も、何もかも違うのに、
なぜだか私は、ふとそう思った。

『誰かを待っているの?』

心の中でそう呟いたが、現実に口に出すことはできなかった。
ところが、一度は視線を離してみたものの、やはりどうしても気になる。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ