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自殺紳士

第19章 Vol.19:時が降る

☆☆☆

準備に抜かりはないかな・・・

私は部屋を見渡した。
ベッドには真新しいシーツ、戸棚もクローゼットもスッキリと片付いている。
冷蔵庫の中も空っぽにした。

頭の中でチェックリストをもう一度。
SNSのアカウントは全部閉鎖して、データを消去した。
銀行口座は解約、現金は今、部屋にひとつ残っているスーツケースに詰め込んである。

事後に知らせが行くだろう仕事場には・・・
ちょっと申し訳ない気がするけれども、
余計な詮索をされるわけにはいかないので、勘弁してもらおう。

方法もよく調べた。
何度も、頭の中でシミュレーションを重ねた。

そして、一番お気に入りのナイトウェアに着替える。
手には睡眠薬を十分量。

あとは、スイッチを入れて、睡眠薬を飲んで・・・
ゆっくりとベッドに横になる。

そうすれば、私は美しいまま死んで、
明日の朝、来てもらうように手配した知り合いが、
『私』を発見してくれる手はずだ。

ただ、ひとつだけ懸念があった。
『彼』の存在だった。
もしかしたら来ないかもしれないけど・・・

それは、期待だったのか、
別の感情だったのか。
今となってはわからない。

ぴんぽーん

予想どおり
・・・というか、予告通り、
やっぱりチャイムが鳴る。

あゝ・・・『彼』だ。

手にした薬をベッドサイドのテーブルの上にコロンと置き、
少しため息混じりに私はワンルームマンションの玄関に向かった。

ガチャリと扉を開くと、そこに立つのは一人の男。

「よかった・・・まだ、生きてる」

黒いスーツ
かろうじて黒ではない濃紺のネクタイ

いつも通りの『彼』だった。

「やっぱり、今日も来たのね」
「ええ。話したでしょ?」

追い返そうと思えば追い返せるのを知っている。
でも、私はそうしなかった。

「やっぱり、死ぬんですか?」

彼が私の姿を見て言う。

「そうよ」

私は答えた。
その答えは変わらない。
結局、一年間、ずっと変わらなかった。

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