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幸せな報復

第22章 沢子と山口宗男

 もし相手が普通の人間であったなら、けだもの族の出産は従来の法則に従っただろう。
 しかし、沢子が子をなした相手は海星だった。
 その結果、誰にも予測できない変化が起きた。
 沢子から生まれた二人の子どもは、けだもの族の歴史のどこにも記録のない存在となった。

 海星は我が子を見つめた。
 まだ小さな赤ん坊だ。
 泣くことしかできず、自力で歩くことすらできない。

 それなのに――。
 海星の背筋を冷たいものが走った。
 自分よりも遥かに大きな力が、この小さな肉体の奥に眠っている。
 そう確信できてしまった。

 それは父親としての喜びではなかった。
 畏怖だった。
 いや、恐怖だった。

「あの無力な赤ん坊が……わたしを恐れさせているというのか」

 気づけば両脚が小刻みに震えていた。
 最初は何が起きているのか分からなかった。 だがすぐに理解した。
 これは初めて味わう感覚だ。

 不安。
 そして――恐怖。

 生まれて初めて、海星は自分より上位の存在を意識した。

 海星は沢子と並んで眠る二人の赤ん坊を見つめた。
「どちらかを選択し抹殺しなければならない。残念だが、将来、自分に掛かる恐怖を半分に減らしておいたほうがいい」
 彼は自分の心を鎮めるかのように言い聞かせた。
 海星はけだもの族がいるなら観てみたい、と思った。

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