テキストサイズ

幸せな報復

第22章 沢子と山口宗男

 沢子は震える手で拳を握った。
 そしてゆっくりとうつむいた。
 精も根も尽き果てていた。
 海星は満足そうに頷いた。

「よし」
 そして告げた。
「今日からお前は私の妻だ」
 沢子は何も答えなかった。
 海星にとって彼女は特別な存在だった。
 これまで何人もの女との間に子を残そうとしてきたが、誰一人として耐えられなかった。 しかし沢子は違った。
 鍛え上げられた身体を持つ彼女なら、自分の子を残せるかもしれない。
 海星はそう考えていた。

 だが、けだもの族には一つの特徴があった。 一人の女性が生涯で授かる命は、たった一人。
 しかも必ず女児だった。
 その事実を知った海星は眉をひそめた。

「たった一人しか産めんのか」
 しばらく考え込む。
 そして不気味な笑みを浮かべた。
「ならば、その娘を育てればいい」
「少しずつでも、私の血は増やせる」
 海星の野望は消えていなかった。

 数万年ものあいだ、けだもの族の女は生涯に一度しか子を産まなかった。
 彼らは人間の立ち入れない限られた領域で生きている。種の数を維持するため、その生殖形態は長い年月をかけて完成されたものだった。

 二人目の子が生まれる――そんな事態は、誰一人として想像したことがなかった。
 だが、その絶対の掟は破られた。
 沢子は二人目の子を産んだのである。
 沢子も、けだもの族の長老たちも、人間界に暮らす者はすべて人間だと思い込んでいた。
 だが、小椋海星は違った。

 海星は現代医学によって生み出された特殊な存在だった。遺伝子操作によって、人間の枠を超えた能力を与えられた存在。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ