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幸せな報復

第21章 義美の生い立ち

 彼は、生まれてきた二人目の赤ん坊を忌み嫌った。
 海星は、仁美に続いて生まれた義美を、不吉な兆しそのもののように感じていた。そして案の定、海星は沢子に冷たく言い放った。「その子を古井戸に捨てろ」
 海星は、自らの手で赤ん坊に触れることすら嫌悪した。
 いや、それ以上に――恐れていた。

 これまで数えきれぬほど他人を傷つけ、命さえ奪ってきた海星が、たった一人の赤子を前に足を止める。
 その事実こそが、義美という存在の異様さを物語っていた。

 義美のそばに立つだけで、背筋が粟立つ。
 理由はわからない。ただ、本能が警鐘を鳴らしていた。
 命令だけ残し、海星は確認もせず足早に部屋を去った。
 その背を見送りながら、沢子は違和感を覚えた。
 海星が自分の命令の結果を確かめず、その場を離れるなど、これまで一度もなかったからだ。
 だが沢子にとって、それは千載一遇の好機でもあった。
 義美を抱きしめたまま、沢子は息を呑む。 この子を守るなら、今しかない。
 仁美を置いていくことだけが、胸を引き裂いた。
 眠る我が子の顔が脳裏に浮かび、足が止まりそうになる。
 それでも沢子は唇を噛みしめた。
 今この腕の中にいる義美は、すでに死を命じられている。
 生かせる命を守ることが先だった。
 沢子が逃げ込んだ先は、皮肉にも海星の部下である山口宗男のもとだった。
 宗男は、ホステスの貞子と幼なじみでもある男だった。
 もちろん、沢子は知らない。
 自分と義美の逃亡そのものが、最初から海星によって仕組まれた筋書きだったことを。 逃亡を助けられた沢子は、宗男を救いの主のように信じた。

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