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第4章 偏愛


『…はい』と、小さな声。
チェーンを掛けたまま細く開いたドアの隙間からチエのお袋さんが顔を覗かせた。

「突然すいません。大井と申します。…チエさんとお付き合いさせてもらってます」

増山「…チエ、と?」

「はい。少しだけお話させて頂けませんか?」

一旦閉まったドアが、ゆっくり大きく開かれた。

「初めまして。大山智翔と申します」

増山「…どうぞ」

窶れた頬。
疲れきった身なり。

どれだけ今まで苦労してきたんだろう。

狭いアパートのなか。
綺麗に整頓されてる。

『…どうぞ』と、俺の前にコーヒーを出してくれた。

「ありがとうございます」

増山「…チエ、は…どうして、ます?」

「凄く楽しそうにしてます。毎日」

増山「……そう」

「…チエは、初めて会った日。歩道橋の欄干の上に立ってました」

増山「…」

「ご存知でしょ?…彼女は、死ぬ方法だけをずっと探し歩いてたんですよ」

結局は俺に掴まり免れた。
お袋さんはギュッと手を握り締め俯いた。

「今は、凄く幸せだと笑ってくれてます。…だから、貴女に会わせようと話をしました」

増山「…」

「けど、チエは。…昌也さん…兄貴さんが居るから会えないと言いました」

増山「…昌、也?どうして?」

「幼い頃……学校に上がって直ぐの頃に、彼に悪戯されたと。だから、怖くて会えないと教えてくれたんです」

増山「そんなっ!…どうして、話してくれなかった…の…」

「言えますか?…あの頃のチエが、貴女にそんな話」

ずっと嫌われない様にと必死だった幼い頃のチエ。
まだその頃は血が繋がってないなんて知らないあいつが、親にそんな話出来る訳がない。

「…チエはずっと、誰にも愛されて来なかったと言いました。だから、今は俺が、誰よりもチエを愛してやってます」

増山「愛してないなんてっ!誰も言ってないっ!…必死で産んだ子をっ!…愛してない訳ないじゃない…」

「だったら!…どうしてそれをあいつに伝えなかった?…隙を見てでもどうにか出来た筈だ。それさえもせずに、愛してない訳ないなんて、誰が信じられんだよ」

泣き始めたお袋さん。
『生意気言ってすいません』と頭を下げた。
首を振りながら何度も『ごめんなさい』と繰り返してた。

「…会いたいですか?」

増山「…フゥ…チエが、許してくれる、なら…会って謝りたい…」

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