
龍虹記(りゅうこうき)~禁じられた恋~
第1章 落城~悲運の兄妹~
突如として強い力で蹴り上げられ、千寿の華奢な身体がユラリと傾ぐ。それでも唇を固く引き結んでいる様を見、更に力を込めて蹴ると、今度は呆気なく千寿は前に倒れた。
「フン、口ほどにもない奴めが」
嘉瑛は千寿の頭を草履で踏みつけた。
「俺が憎いか? 殺したいほど憎いか? だが、俺を殺すためには、そなたはまずこの場を凌がねばならぬぞ。生きるためには飯を食べねばならぬ。のう、そうではないか?」
ゆっくりと幼子に語りかけるかのような優しげな口調で語りかけながらも、嘉瑛は力を込めて脚を千寿の頭上で動かす。脚先でこづき回され、千寿の口から思わず〝くっ〟と呻き声が洩れた。
「牢番、粥をこれへ」
嘉瑛が顎をしゃくる。半刻余り前に運ばれ、いまだ一切手を付けられてはおらぬ粥を持ってこさせた。嘉瑛はやおらその粥をひと口含むと、千寿の上に覆い被さる。
両手を持ち上げた格好でその場に仰のけられ、千寿は眼を見開いた。次の瞬間、千寿は一体、何が起こったのか把握できなかった。
嘉瑛の顔がなおいっそう近付いたかと思うと、いきなり唇が重なったのである。重なった相手から口移しで千寿の口中に粥が流れ込んできて、千寿は身を強ばらせた。
―この男は一体、何を考えている―?
愕きと混乱のあまり、千寿は流し込まれた粥を呑み下すことも忘れ、烈しくむせた。
漸く我に返った千寿は両手にありったけの力を込め、嘉瑛の屈強な身体を突き飛ばした。
「何をするッ。私に触れるな」
千寿は口に残ったわずかな粥を唾液と共に、眼の前の男向かってペッと吐き出した。
こんな卑劣な男に唇で触れられたと思っただけで、あまりのおぞましさと嫌悪感に鳥肌が立つ。
「まだ子どもながら、その意思の強さは天晴れ、見上げたものよと賞めてやりたいが、俺は先日も申したように取り澄ました顔をしている輩が生憎と虫酸が走るほど嫌いなのだ。見せしめに、そちには何か仕置きをして、その強情さを直してやらねばならぬであろうな」
嘉瑛は別段怒った風もなく、淡々と言いながら、頬にかかった唾液を無造作に手の甲でぬぐった。
「牢番、あれを持て」
嘉瑛が再度ぞんざいに顎をしゃくると、後ろに控えた二人の牢番の中、一人が慌ててどこかにいった。ほどなく戻ってきた牢番が嘉瑛の膝許に畏まる。
「フン、口ほどにもない奴めが」
嘉瑛は千寿の頭を草履で踏みつけた。
「俺が憎いか? 殺したいほど憎いか? だが、俺を殺すためには、そなたはまずこの場を凌がねばならぬぞ。生きるためには飯を食べねばならぬ。のう、そうではないか?」
ゆっくりと幼子に語りかけるかのような優しげな口調で語りかけながらも、嘉瑛は力を込めて脚を千寿の頭上で動かす。脚先でこづき回され、千寿の口から思わず〝くっ〟と呻き声が洩れた。
「牢番、粥をこれへ」
嘉瑛が顎をしゃくる。半刻余り前に運ばれ、いまだ一切手を付けられてはおらぬ粥を持ってこさせた。嘉瑛はやおらその粥をひと口含むと、千寿の上に覆い被さる。
両手を持ち上げた格好でその場に仰のけられ、千寿は眼を見開いた。次の瞬間、千寿は一体、何が起こったのか把握できなかった。
嘉瑛の顔がなおいっそう近付いたかと思うと、いきなり唇が重なったのである。重なった相手から口移しで千寿の口中に粥が流れ込んできて、千寿は身を強ばらせた。
―この男は一体、何を考えている―?
愕きと混乱のあまり、千寿は流し込まれた粥を呑み下すことも忘れ、烈しくむせた。
漸く我に返った千寿は両手にありったけの力を込め、嘉瑛の屈強な身体を突き飛ばした。
「何をするッ。私に触れるな」
千寿は口に残ったわずかな粥を唾液と共に、眼の前の男向かってペッと吐き出した。
こんな卑劣な男に唇で触れられたと思っただけで、あまりのおぞましさと嫌悪感に鳥肌が立つ。
「まだ子どもながら、その意思の強さは天晴れ、見上げたものよと賞めてやりたいが、俺は先日も申したように取り澄ました顔をしている輩が生憎と虫酸が走るほど嫌いなのだ。見せしめに、そちには何か仕置きをして、その強情さを直してやらねばならぬであろうな」
嘉瑛は別段怒った風もなく、淡々と言いながら、頬にかかった唾液を無造作に手の甲でぬぐった。
「牢番、あれを持て」
嘉瑛が再度ぞんざいに顎をしゃくると、後ろに控えた二人の牢番の中、一人が慌ててどこかにいった。ほどなく戻ってきた牢番が嘉瑛の膝許に畏まる。
