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龍虹記(りゅうこうき)~禁じられた恋~

第1章 落城~悲運の兄妹~

 正室として迎える万寿姫にはまず、嘉瑛の子を生ませねばならない。女など抱いてしまえばそれで終わりだ、殊に万寿姫と臥所を共にする目的は足利将軍家の血を引く子、しかも男子を誕生させるための手段にすぎない。そう考えている嘉瑛ではあるが、意外に妻とはそれなりに心を通わせたいという人間らしさも持ち合わせていた。
 それは、彼の両親が長らく不仲であったことにも起因しているだろう。彼の母は重臣の娘であった
が、嘉瑛が物心ついた頃にはもう夫婦仲は険悪で、父は他の側室たちと戯れてばかりいた。母はいつも自分は不幸だとくどいほどに零していた。不幸だ不幸だと愚痴ってばかりいるから、余計に父に嫌われるのだと言ってやりたかったけれど、そんなことを言えば余計に母がヒステリックに泣き喚くので、言わなかった。
 

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