
龍虹記(りゅうこうき)~禁じられた恋~
第1章 落城~悲運の兄妹~
これこそが、嘉瑛が万寿姫を欲した最大の理由であった。嘉瑛はいずれ京に上り、没落した将軍家に成り代わり、天下に号令せんとの野心を持っている。
とはいえ、いかにせん、嘉瑛自身は祖父は油売りの成り上がり者である。だが、そこに彼が名門の姫を妻として迎え、その姫が嘉瑛の子を生めば、どうだろう。嘉瑛は万寿姫の生んだ我が子を次の将軍とし、自分その後見として権力を一手に握ろうと画策していた。現在、細々とはいえ、京都にはまだ足利将軍家が存在している。
たとえ飾り物になり果てたとはいえ、尊氏から始まった由緒ある将軍家に忠誠を誓う者も多いこの時世では、強引に将軍を廃嫡するよりは、次の将軍たるべき正当性を持つ人物を担ぎ上げ、自分がその後見に立って傀儡の将軍を操った方が利口だと、嘉瑛は考えたのだ。
その布石として、まず長戸通親に再三書状を送り、万寿姫を妻に申し受けたいと頼んだにも拘わらず、通親はついに最後まで諾とは言わなかった。気の短い嘉瑛としては、これでも長く待ったつもりだった。
とはいえ、いかにせん、嘉瑛自身は祖父は油売りの成り上がり者である。だが、そこに彼が名門の姫を妻として迎え、その姫が嘉瑛の子を生めば、どうだろう。嘉瑛は万寿姫の生んだ我が子を次の将軍とし、自分その後見として権力を一手に握ろうと画策していた。現在、細々とはいえ、京都にはまだ足利将軍家が存在している。
たとえ飾り物になり果てたとはいえ、尊氏から始まった由緒ある将軍家に忠誠を誓う者も多いこの時世では、強引に将軍を廃嫡するよりは、次の将軍たるべき正当性を持つ人物を担ぎ上げ、自分がその後見に立って傀儡の将軍を操った方が利口だと、嘉瑛は考えたのだ。
その布石として、まず長戸通親に再三書状を送り、万寿姫を妻に申し受けたいと頼んだにも拘わらず、通親はついに最後まで諾とは言わなかった。気の短い嘉瑛としては、これでも長く待ったつもりだった。
