
方位磁石の指す方向。
第3章 scene 3
「じゃあ俺、こっちだから。」
…これは見せちゃいけない。
下駄箱の中に入っていた、
一通の手紙。
可愛いピンクの便箋。
綺麗な字。
「…知ってる。この子。」
「え?」
「えーっと…なんだっけぇ…。
ほら、幼稚園一緒だった子。
翔ちゃんのこと大好きだった子だよ。
すずちゃんだよ。」
「…すずって…凉帆?」
「そうそう!凉帆ちゃん!」
…確かに、幼稚園は同じだった。
肩の上に短く切り揃えられた
艶々のストレートが印象的だった。
ぱっちりとした大きな目に、
真っ白な肌。
彼氏がいてもおかしくない年頃。
そういうことに興味を持ち始める年頃。
それは俺も同じ。
「…断る。」
「だよねだよね!
和がいるもんね!」
智くんが嬉しそうに笑う。
…二宮のこと、大好きなんだな…。
一人っ子だからか?
「でも、すずって
学年のマドンナって
呼ばれてるじゃん?
ファンクラブまであるみたいだし?
断ったら怖くね?」
「いーじゃんいーじゃんっ!
ただ、これが和に知れ渡ったら…
そのときは覚悟しておいた方が
いいかもねぇ?」
「え?なんで?」
「…あ、次移動だよっ!
ほら、行こ!」
「あ、ちょっと…」
智は意味深な言葉を残して、
廊下を走っていった。
「なんだよ…覚悟って。」
