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方位磁石の指す方向。

第3章 scene 3

櫻井side



唇が触れるか触れないかのところまで
二宮に近付いた。

顔は真っ赤で、震えていた。


ちょっと垂れ気味の眉毛が
印象的だった。



好きかどうか、と聞かれたら、
好きなんだろうけど。

俺はまだ、智くんが好きだ。



「翔ちゃーんっ」

「あ、おはよ。」


智くんの後ろで小さくなってる二宮。

雅紀は「智~」ってハートマークが
付きそうなくらい、甘ったるい声。



…智くんが好きだから、
気持ちは複雑だけど。

でも、あの二人はお似合いなんだなって
つくづく思う。

マイナスイオンが漂う二人。

俺なんかより…よっぽど…。


「…翔さん?」


リュックのショルダーベルトを
ぎゅっと握り締め、俺を見る。


「ん?」

「へへ、なんでもないよ。

…あの二人、お似合いだよね。」


ちょっと悔しそうに、
恨めしそうに。

でも、嬉しそうな声。


「…あぁ、そうだな。」

「辛い?」

「…あぁ。」



そうだよね…って視線を落とす二宮。

…ごめん。



胸が痛む。

だけど、俺はお前を心から愛せない。




こんな恋は初めてだ。

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