
方位磁石の指す方向。
第3章 scene 3
「好きって明確じゃないのに、
付き合うなんて遊びと同じだ。
ちゃんと好きになってから、
二宮と付き合いたい。
だって俺…智くんのこと、
ずっと想い続けてるから…」
…そう、だよね。
智がいるんだもん。翔さんには。
俺には、翔さんしかいないのに。
「…わかっ、た。
待つ、から…。
その代わり、キスは、なしで。」
「だめ?」
「好きじゃ、ないなら、だめ。」
教科書を口元に当てて、
翔さんを見た。
可愛い、って連呼する。
知らない…。
可愛くなんて、ない。
「…じゃあ、またね。」
「えっ?」
「俺、帰る。
また明日、学校来いよ。」
うんって言う前に、
翔さんが俺の腕を引っ張った。
そして、俺をゆっくり押し倒した。
顔がギリギリまで近付いて、
目をぎゅっと閉じた。
「……なーんてね」
「へっ?」
「キス、すると思っただろ?
しねえよ。」
「なっ、」
途端、顔が熱くなる。
頬に触れると、手よりも熱い。
「んじゃあな。
まだまだ、ガキだな。」
「ばっ、バカ!」
…キス、されると思った。
……でも、嫌じゃなかった。
前は無理矢理で……今もだったけど。
無理矢理されたときは、
ほんとに悲しくて。
ファーストキスをあんな形で奪われて、
とにかく、辛かったし、怒りの方が多かった。
「…はぁっ…」
自分の唇に指を押し付ける。
…柔らかいとは、思う。
…前したときは、
ほんの一瞬だったからわからなかったけど、
翔さんって、やっぱりいい匂い。
ちょっぴり汗臭くて、
だけど、いい匂い。
俺、臭いかな…。
自分の匂いを嗅いでみる。
そうしたら、翔さんの移り香。
…やっぱ、好き…。
