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方位磁石の指す方向。

第8章 scene 7






わけもなく零れる涙。

止めようと思うほど、
止まらなくなる。


「ふっ、…ごめ、」

『んーん、いいよ。』

「いちいち泣くヤツなんてっ、
重い、よねっ…ごめっ、」

『…いーよ。
俺の見えない所で泣いてるのより
ちゃんと見えてる所で泣いてよ。

心配なんだから…』


言われた途端、
堪えていた感情が
どっと押し寄せてきて。

…あぁ、もうだめだ。


俺は、…俺は本当に、
この人が好きなんだ。

なんでこの人なのかはわからない。

でもなぜか、
心がこの人を求めてる。


この人じゃなきゃだめだって。

この人じゃなきゃ笑えないって。




『……泣き止んだ?』

「ん、も、平気…」

『そ?よかった。
泣いたらスッキリした?』

「ん…」


まだぐすぐすと鼻を鳴らしてるけど
翔さんは優しい声で

よかったね

って、ただそれだけ。


でもそれが今は心地いい。

干渉されるのは、嫌いなんだ。


だから、

この距離感がちょうどよかった。

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