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今日も明日も

第69章 sweet trap


「冗談だよ」
冗談だと分かってるくせにうなだれる雅紀に小さく笑う



誰かに助けられたのは覚えてる

力の差と恐怖で、動けなくなって
…スラックスを降ろされそうになったその時に

“おっさん、何やってんだよ“ って声がしたと同時に誰かに庇うように引き寄せられた


ただ、あの時はあまりの恐怖とショックで
相手の顔はおろか、助けた人の顔も覚えてない

覚えてるのは、その人に付き添われて駅の事務所で何か話をした事と

事が事だけに碌にお礼も言えずに逃げるように去ってしまった事だけだ


「え、助けてくれたのって、雅紀?」

「…あんなに縋りついてきたのに覚えてないの?」

「最低な記憶過ぎて覚えてない」

「まあ、そりゃそうか」


確かに覚えてない

だけど “大丈夫だよ“ のあの声が、目の前のこいつだと言うのならそれは本当なのかもしれない

それに、何処か見覚えがある気がするのも事実だし


「あの時のにのが可愛くてさ」

「は?」

「俺の女好きを一瞬で覆してくれちゃった」

なんだろう、こいつのこの顔は




「惚れちゃったんだよね、お前に」

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