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優しいキスをして

第6章 秘密の恋人たち

それから数日後。
店長会議の日だった。
その日、あたしは午前中から転々とヘルプで各店を渡り歩いた。夕方3番店に入ることで留まり、忙しい営業時間を終えた。
今日は珍しく全店が忙しくて、店長会議は予定より一時間遅れでスタートと連絡があった。
連絡をくれたのは大沢さんだった。
「……了解しましたぁ。……ムシャ……ありがとうござーす」
あたしは電話片手にハンバーガーを頬張った。
少しの間の後、大沢さんが言った。
『さっきからムシャムシャ聞こえるんですけど、……お前今メシ?』
「ええ……っごっくん。……遅い昼飯ですよ。今日食べる時間なかったから」
『……先輩と話すときに飯食ってんじゃねえよっ』
「食べてたら大沢さんから電話あったんですー!……今食べ始めたとこなのっ!」
『おお、そりゃご苦労っ。とりあえずそうゆーことだから、今日は遅くなるからな。覚悟しとけ』
あたしはコーラをすすった。
……これからマジでやるの?みんな疲れてんのに。
「……てゆーか、わざわざ今日やる必要あるんですかね?明日に延期すりゃあいいのに」
電話の向こうで大沢さんがため息したのが聞こえた。
『先生がどうしても今日って聞かねぇんだとよ。竹井さんの話しだと』
「ふーん」
……あの、自分勝手ばばあめ。
『まあ、お前からしたら彼氏とラブラブする時間が減るから勘弁してくれってとこだろうけど』
「そうですね♪」
あたしは思わずにんまりしてしまった。今日はともくんと久しぶりにお泊まり♪早く会いたいなー♪
『…………。色気づいてんじゃねえよ、ばーか』
あたしは疲れてるからか、いつもなら気にならない大沢さんの強いツッコミに少々カチンと来た。
「なんですか……もう、切りますよ?」
大沢さんはまたため息した。
『須藤、気を付けろ?今日、なにかあるかも知れねえ……』
「なにかって?」
『わかんねえけど……、俺はなんか嫌な予感がする』
今度はあたしがため息した。
「なんですか、その根拠のない自信ありげな言い方」
「てめぇ、俺がせっかく忠告してやってんのに! 何があってもしらねえかんな?」
あたしはもう電話を切りたかった。
……大沢さん、いつもろくなこと言わないじゃん。
「大沢さんの虫の知らせなんて宛にならないです」
あたしが呆れたように言うと、大沢さんも諦めたのか、いつもの調子に戻った。

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