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アクマにアソコを貸しました

第10章 イカ?いいえ、津島です

「さて」

息もせずに真赭の動きを凝視していた桐原さんは弾かれたように声の主へ視線を向ける。

「なんと言ってたかな。確か――」
問うように小首を傾げてみせる京紫。かわいいはずの仕草なのに彼の背中からは渦巻いて吹き上がるような凶悪さしか感じられない。

「我らの所有物たる梓穏を食べる――と?
貴様が上級魔族――だと?」

はぁぁぁ…京紫が深いため息を漏らすとドーム内の気温が下がった気がした。肌寒くて腕を擦る。

フワッと何かが肩から掛けられた。上着を掛けてくれた真赭を見上げると、すまなそうな笑顔をみせる。
「ごめん、こんなに小さくても結界の中は異空間だから空気の毒々しさを寒さと誤認するよな…あ、梓穏」
真赭は人差し指を立てて私の名を呼ぶとどこかを愉しげに指差した。


コツッコツッ
革靴を鳴らしてゆっくりと桐原さんの方へ歩き出した京紫。砂だったはずの地面は岩の覆われている。
たどり着くまでにはまだ数メートルの猶予があるのに、顔面蒼白の桐原さんは蛇に睨まれた蛙のように逃げる事さえ思いつかないのか、つっ立ったまま微動だにしない。

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