テキストサイズ

手紙~天国のあなたへ~

第6章 別離

 王宮の奥深くにいるだけでは、民の暮らしは判らない。自分は次代の王、この国を統べるべき者として民のために何ができるのか?
 大切な事実に気付かせてくれた女に感謝し、彼が持ってきた茶を淹れて嬉しげに呑む留花への愛しさがいっそう募った。
 世子の記憶は更に過去へと遡った。
 あれは緑茶を持参したのと同じ日だ、彼はその頃、なかなか宮殿を抜け出せなかった。彼がひそかに町に出て民情視察をしているのが国王である父に知られてしまい、いつも傍に控えている内官(宦官)の監視が強化されたからだ。
 それでも、何とか隙を見て抜け出し、留花の許を訪れたあの日、留花は彼を待ち侘びていたようで、表に出て地面に落書きをしていた。
 
 李愃 良人

 崔留花 妻

ストーリーメニュー

TOPTOPへ