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手紙~天国のあなたへ~

第6章 別離

 あの男にけして拘わってはならない。
 その祖母の言いつけを破ってまで留花と自分が結ばれたのは、やはり何かの宿命であったのか。
―このような上等なお茶が私たち庶民の口に入ることはあり得ません。祖母にもひと口でも飲ませてあげたかった。
 あの少女の何げないひと言に、世子はハッとした。あの娘のことゆえ、贅沢三昧に耽る両班への厭味で言ったわけではあるまい。
 あのひと言は、民の生活の貧しさ、窮状を改めて知る良い機会となった。自分は幼い頃から、この上等な茶を当たり前のように飲み、誰もが同じなのだと考えていたが、それは大きな誤りであった。
 安物の茶さえ飲めず、白湯や水を飲むのがその日暮らしの庶民にとっては当たり前のことだったのだ。
 あの一瞬、彼はまさに民の生活を目の当たりにし、その現実を見、想いを馳せた。 

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