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手紙~天国のあなたへ~

第6章 別離

 留花は彼が持参した上質な緑茶を亡くなった祖母にも飲ませてやりたかったと言っていた。穏やかな雰囲気の中にも眼光鋭いあの老婆にひとめ見つめられた時、彼はヒヤリとしたものだ。
 後で留花から、あの老婆が占い師だと聞いた時、なるほどと納得がいった。あのカッと見開いた双眸は確かに人の未来や過去といったものを映し出せるものなのかもしれない。それほどに―見据える者の心の奥底まで見透かすかのような鋭い視線だった。あの視線の前では、どのような欺瞞や嘘もすべて容赦なく剥ぎ取られ、本音を見破られてしまうのではないかと思う。
 もしかしたら、あの老婆は自分の正体をすぐに見破っていたのかもしれないが、孫娘には告げていなかったようだ。それはそうだろう、優れた占い師なら、彼の置かれた複雑な状況、更にはやがて見舞うであろう惨事を余すところなく予見していたに違いない。恐らく老婆は孫娘に忠告していたはずだ。

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