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手紙~天国のあなたへ~

第6章 別離

 世子が手土産代わりにと持参した緑茶を留花は彼が愕くほど歓んだ。むろん、彼自身も留花の歓ぶ顔を見て嬉しかったが、内心は意外な気もしていたのだ。
 女というものは、大概、玉で拵えた美しい宝飾品とか絹の眼にも鮮やかな布を贈れば涙を流さんばかりに狂喜するけれど、緑茶を贈って歓ばれるとは考えてもいなかったのだ。現に正妻である世子(セジヤ)嬪(ビン)や他の二人の側室たちは緑茶などをやって、これほどまでに眼を輝かせて歓ぶとは思えない。
 正室は深窓で大切にされて育った娘には珍しく、控えめで驕ったところのない女だ。他の二人の妃たちは両班の令嬢らしく、衣装なども派手好みだが、世子嬪は良人の世子にならい、身の回りのものすべてが慎ましかった。正妃は従順な気性ゆえに、質素倹約を旨とする良人に準じてはいる。そんな彼女であってさえも、まだ若い身であれば、本心ではもう少し華やかに装いたいと考えているようであった。

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